住宅用太陽光発電のツール
そのなかにかならず何戸か「吹き抜け」のある家があります。
玄関を入るとリビングルーム。
天井はぐっと高く、階段が二階にのびています。
リビングの窓は出窓でレースのカーテンがかかり、観葉植物が植わった小鉢がならんでいます。
二階に上がると個室には天窓がひらかれていて、真冬なのにびっくりするほど明るい。
「吹き抜け」「出窓」「天窓」をぼくは現代住宅の三点セットとよんでいます。
郊外の住宅地にいくと、これらを完備した家がかなりあります。
この三つのアイテムには共通点があります。
それはどれも「広がり」を演出できるという点です。
なるべく壁を少なくして視覚的に広がりのある間取りにするのが最近の傾向ですが、その代表例がキッチンとダイニングとリビングを別々の部屋として仕切るのではなく、ひとつの空間にするということです。
またあるいは、大きな子供部屋をつくって本棚などで仕切り、二人、三人用にする。
ワンルームのような住まいにして個室は夫婦の部屋くらいにして、あとは仕切りを使ったコーナーにする。
そういう住まいもあります。
どれも「広がり」を求めた間取りです。
悪童吹き抜け、出窓、天窓は、現代住宅の三種の神器P最初に紹介した「吹き抜け」の場合は天井という「壁」をとりはらって、「縦」の広がり感をだす方法です。
けれど、壁をへらすと不都合な面もでてきますリキッチンとダイニングとリビングルームがひとつになると、皿を洗う人と食べる人とテレビを見る人が、ひとつの空間のなかに同居する時間もでてきます。
たがいの音が干渉しあうということにもがまんしなければなりません。
「吹き抜け」は延べ床面積を削るし、冷暖房費も相当に高くつく。
それでも結構な人気だといいます。
「吹き抜け」「出窓」「天窓」をつなぐ「広がり」とならぶキーワードが「明るさ」です。
天窓のある部屋などは、まるで屋外にいるかのような明るさですし、出窓も吹き抜けも「明るさ」を演出します。
さらに最近では家庭用の「太陽光採光」装置なども売りだされています。
これは太陽の光を光学レンズで集光し、光ファイバーなどを使って屋内へ伝送するというシステムです。
二至内で日光浴もできるという「便利」なもので、地下室にも陽の光を入れることができますし、室内園芸にも使えます。
天窓にしてもこの新しいシステムにしても、太陽の光をできるだけ室内へ採り入れることを目的としています。
まるで太陽の光は「善」であり、「悪」である陰と暗さを部屋からとことん排除しようとするかのようです。
昼だけではありません。
夜はいっぱいに蛍光灯をつけて、住まいのどこにも陰や暗がりができないように心を配ります。
昼夜を問わずすみずみまで明るい家、これが現代の私たちが求める理想の住まいになりましたしけれど、これほど急速に住まいを明るくしてしまったのは日本人だけです。
ことに蛍光灯を住宅のなかにこんなにたくさん使っている国は、ヨーロッパにはありません。
二〇〇一年の蛍光ランプの生産量は約一二億六千万本。
その数は電球の三倍です一人あたりに換算すると電球一個と蛍光ランプ三本。
けれどアメリカではこれが運転して、電球五個に蛍光ランプ二本となるそうです。
日本人ほど蛍光灯好きはいないといえます。
たしかに蛍光灯は安価に灯りを確保するには最適な道具です。
会場などでは欠かせない照明設備ですが、「光が冷たく無機質」として欧米の住宅では一部の部屋を除けば、まず使いません。
それにしても、いつごろから人はこれほど明るさを好むようになったのでしょうか?一九六〇年代はじめのころまでは、街のいたるところに暗がりが残っていたし、四十ワットの電球一個の灯りで食事をとる家庭というのもざらでした。
けれど、それでひどく不便な思いをしたわけではありません。
しかし、ひとたび明るい環境を手に入れると、その欲求はどんどんエスカレートしていきました。
蛍光灯でもなんでも、やたらと設置する節操のなさはあきれるばかりです。
そして、現代のような「光り輝く」住まいができあがったわけです。
けれど、かつての日本人は暗さをそれなりに楽しむ知恵を持っていたようです。
有名なT.Jの『陰翳礼讃』にはそのことが書かれています。
彼はこんなことをいっています。
要約すると、灰色の壁の美しさは、光旦里を絶妙にコントロールするほの暗さによってはじめてひきたつ。
そのために太陽光線の入りにくい座敷をつくり、その外側には縁側を配し、さらに長く張り出した軒をつけて日光を調節したのだ。
障子は庭からの陽がほのかに忍び寄るようにするためにあるレ私たちが日本家屋に感じる美とは、この間接光の淡い輝きにはがならない。
T.Jによると、日本家屋にある薄暗さは光をコントロールするために意識的に設計されたものだそうです。
全国各地には古い農家や商家、旅籠などを保存している場所があります。
そうしたところを訪れてみると、T.Jの主張は納得がいきます.しどの家も現代感覚からするとうす暗く、土間の隅に潜む闇には若い人など尻込みするかもしれません。
けれど、暗いがゆえに醸しだされる柱や壁の美しさ、漂う落ち着いた雰囲気、そうしたものは現代住宅にはないものです。
そんな暗い住まいに慣れ親しんでいたはずの日本人が、どうして現代のような過剰ともいえる明るい家を好むようになったのでしょう。
T.Jは電球一個が室内に入っただけでも陰翳の美が損なわれると嘆いています。
彼が現在の住宅を知ったらどういう感想をもったでしょう。
T.Jは西洋人には日本家屋の微妙な陰翳の美しさはわからないといっています。
けれど西洋も最初から「明るかった」わけではありません。
あたりまえのことですが、ヨーロッパの家もまた暗かったのです。
ろうそくとランプのたよりない灯りが夜を照らしだす唯一の光源でしたしそれが一変するのは二〇世紀になってからです。
一九〇〇年に行われたパリ万国博覧会の中心は電気宮でした。
数千個の彩色電球が夜を飾るその光景は、魔法のようにパリの人々を魅了しました。
人々の度肝を抜いたそのパビリオンは「夜といえば暗いもの」という常識をくつがえしました。
むしろ、間だからこそ電気の明かりを楽しむことができる。
そのように感覚がかわっていったのです。
博覧会といえば、そのパリ万博の五十年まえに開催されたロンドン万博にもまた、のちの建築に大きな影響をあたえるパビリオンが登場しました。
鉄材とガラスによって建築された水晶、このガラス張りの巨大建築物は、温室として建てられたものでした。
それまでガラスは窓に用いられるだけで、このように「壁」を構成するということはありませんでした。
けれどこうした建築をまのあたりにした人々は、この新しい技術を少しずつオフィスや住宅に用いるようになり、積極的に外光を採り入れるようになっていきました。
このように電気による照明によって夜の明るさを獲得し、さらに昼も採光によって光をゆきわたらせるという考え方はヨーロッパからはじまりました。
けれど、T.Jのいう「西洋人が室内の陰翳を理解しない」というのは大きな誤解です。
一六世紀の末、ローマの画家、カラヴァッジオは『聖マタイの殉教』『聖ペテロの楳刑』などの宗教画によって、光と陰のコントラストを巧みに描く新しい画法を確立しました。
それにつづいてR、Fといった画家たちも、室内に差しこむ日常の光を美しく再現する作品を、競々と生みだしていきました。
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